地域問題研究所 組織

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組織・研究員

組織

2023年度

【運営体制】

所長 楠本 孝

地研運営委員 法経科: 西川 昇吾  生活科学科:  北村 香織

年報担当: 北村 香織  通信担当: 西川 昇吾

交流集会担当:北村 香織   HP担当:北村 香織

会計担当:西川 昇吾     

【所員】 本学の専任教員は研究所の所員となります。研究員は、研究費の支給を受けて、自ら設定したテーマについて地域に関する自主研究に従事します。

【研究員】
楠本 孝、大畑 智史、鷲尾 和紀、照井 遥瑛、相川 悠貴、高橋 彩、武田 誠一、田中 武士

【奨励研究員】
北村 香織

 

研究員(2023年度)

研究員名                          研究テーマ 研究概要
楠本 孝 ヘイトスピーチ刑事規制の保護法益について ヘイトスピーチの刑事規制は、我が国では、川崎市が嚆矢となり「適法に居住する本邦外出身者」に対する不当な差別的言動を処罰の対象としたが、相模原市では規制対象を人種、民族、国籍だけでなく障害や性的指向、性自認、出身を理由とする不当な差別的言動にまで拡大する条例の制定が検討されている。こうした条例によるヘイトスピーチの刑事規制は、何を保護法益とすべきかについて考察する。
大畑 智史 三重県の広域連携のあり方  日本各地において地方創生の議論が活発であるが、この議論における広域連携の視点は重要性を増すようになってきている。人口減少本格化などの問題を抱える三重県の活性化のため、設立されて10年以上経過した関西広域連合への正式参加などの視点を考慮し、現在の三重県の広域連携のあり方を再検討すべきだと考えられる。本研究では、関西広域連合への三重県の正式参加などの三重県の広域連携の諸形態の経済的効果等についてICTシステム活用や経済促進的租税措置活用などの視点を考慮して分析し、この上で三重県の活性化につながるような本県の広域連携のよりよいあり方を探る。当該分析は、三重県の「南北問題」解消などの三重県の地方創生の議論の際に役立つと考えられる。
鷲尾 和紀 地域密着型スポーツチームにおける試合観戦を通じたファンの生活様式と地域活性化の取組モデル-株式会社ヴィアティン三重の事例を元に- 平成30年6月に津市との間に締結した包括提携協定に基づき、本学と株式会社ヴィアティン三重(以下、「ヴィアティン三重」とする。)のバレーボールチームが連携協定を締結した。本学の提携にあたって、協定の概要に今回の共同研究の狙いになる内容が定められています。5つの概要のうち「①スポーツを基軸とした地域活性化への提携」、「②スポーツを通じた教育・人材育成への連携」、「④相互プロモーション活動による連携」については、ヴィアティン三重が目指す地域密着型スポーツチームに適合するものである。
地域密着・地域活性化を求めるにあたって経済活動もまた不可欠となっている。その研究についてはマーケティングの世界では、スポーツマーケティングとして先行研究が数多く出回っている。スポーツマーケティングは、サービスの分野から派生しているため、私の研究領域に入ってきます。
ヴィアティン三重は、単にスポーツを強くし経営ビジネスを発展させることだけを考えているわけではない。スポーツを通じて、地域密着を作り、地域の人たちのすみやすい環境を提供することを求めている。
そこで特に私の方で取り上げていきたいのは、スポーツ観戦運営にあたっての周りの取り巻く環境です。
主に、プロモーション活動からの来場者からの視点、イベント運営にあたっての出店(地域とのかかわり合い)であります。
スポーツ観戦一つを取っても、チケット収入もまた地域に取り巻く資源を巻き込むことができます。それを繰り返すことによって顧客価値を作り出し、内部外部において地域コミュニティの創出が見込まれます。
その地域の取組と主にスポーツ観戦を通じた顧客との関係について、ヴィアティン三重は今後どう発展させていきたいのか。地域マーケティング戦略において、どのようなビジネスモデルを構築していけば、企業と地域(住民)が一つとなった地域コミュニティができあがるのか。最終的にはスポーツマーケティングを通じた全体的な地域活性化モデルを創りあげていきたいと考えております。地域活性化モデルには、6次産業によるチャネル政策、地産地消も含まれてきます。
その他、スポーツマーケティングにおけるスポンサーの開拓戦略やプロモーション戦略、サービス品質の在り方等、求められるテーマがあれば扱っていこうと考えております。
 今のところ、私の個人的なイメージではサッカー観戦であり、サッカー競技場でのスポーツ観戦を例にしております。ヴィアティン三重はサッカー以外に様々なスポーツ競技に携わっておりますので、地域密着に向けて戦略そのものが大幅に異なっていなければ別の競技でも対応はできます。
本学の提携にあたって、協定の概要に今回の研究の狙いになる内容が定められています。また本学で求める地域研究について有意義なものであると考え、今回研究員として申請を希望致します。加えて前述した、「地域活性化モデルには、6次産業によるチャネル政策、地産地消が含まれる」をテーマにした論文を次年度の地研年報で投稿しようと考えております。
照井 遥瑛 我が国における共同不法行為論(民法719条1項)の展開過程について
―四日市公害訴訟と同訴訟までの判例・学説を中心に―
 民法719条1項は、複数主体による不法行為(「共同不法行為」)を規律する規定である。同条は、複数の加害者間に行為に関する何らかの関連共同性があることを要件として、加害者各自が被害者の全損害について連帯責任を負う旨規定する。同条の適用を巡っては、1960年代から多く発生した公害事件を機縁として、様々な解釈・議論が判例・学説上盛んに展開され、複雑な様相を帯びてきたという経緯があるが、一般的な傾向としては、判例は被害者保護に資するように、これまで積極的に加害者各自に連帯責任を課してきており、学説もこれを概ね支持してきたといえる。中でも四日市公害訴訟は共同不法行為論による被害者救済法理発展の嚆矢とされている。
 四日市公害訴訟は昨年、判決から50年を迎えた。現在、共同不法行為論は我が国の民法学における難問の一つと評されている。本研究では、四日市公害訴訟以前の判例・学説の形成過程を確かめつつ、同訴訟における共同不法行為論の理論的位置付けの見定めを行い、上記難問の根源を追究したい。
相川 悠貴 ウェアラブル生体センサを用いた日常の体調変動の予測 【背景】近年、身体に着用しながら継続的に心拍数や温度を測定することができる機器が発達してきた。その機器により、即時の体調評価が可能になってきたが、まだ予測に用いるまでの利用方法が発展していない。
【目的】ウェアラブル生体センサにより採取した生体データを用いて、日常の体調変動予測方法を作成することである。
【方法】対象者に対し、約1か月間の継続測定を行う。測定期間中、対象者はウェアラブル生体センサを着用し、継続的な生体データを入手する。加えて、生活活動と体調を毎日記録する。
【予想される結果】体調不良が生じる際の、生体データの特異的な変化を発見する。
【本研究の意義】体調不良の兆候が生じた際、事前に休養を取るように進言できる知見が得られる。それにより、体調不良による学業や勤務の欠席削減に繋がる。これは、本学学生や三重県内生徒の学力向上や、三重県内勤労者の労働生産向上に繋がる。
高橋 彩 三重県の若者の格差の知覚とシステム正当化 第58回大学生生活実態調査(2022年実施)によると、「日本の未来は明るい」と思わない大学生の率は75.7%と高く、就職と将来の奨学金の返還について70%の学生が不安を感じていることが分かった。さらに、大学生はジェンダー平等を達成すべき重要な社会課題ととらえていた。システム正当化理論によると、人は社会にある格差や不平等を知覚したり、無力感が大きくなると、現存する社会的、経済的、政治的制度を批判することよりも、むしろ支持したり正当化しようとするとされている。本研究では若者の投票率の低さとシステム正当化との関連を明らかにするため、三重県の若者を対象に質問紙調査を実施する。
武田 誠一 地域における多様な主体との連携推進の課題
-重層的支援体制整備事業の実施には,どのような主体との連携が必要か?-
2017年に改正された社会福祉法で,包括的支援体制の整備が市町村の努力義務と規定された.さらに,これを推進するために2020年の同法改正で「重層的支援体制整備事業」(以下,重層事業)も法制化された.
なお,重層事業は任意事業として必要だと考える市町村が実施する事業となっており,三重県内では2021年度実施「名張市,伊賀市,伊勢市,鳥羽市,御浜町」,2022年度実施「桑名市,いなべ市,亀山市,志摩市」となっている.
重層事業の実施に当たり,新たな制度やサービスが導入されるのではなく,多様な主体による,主体的な課題解決の取り組みを土台として,身近な圏域でそれぞれが協働していくことが求められている.つまり,地域社会との協働と多機関との協働が柱である.
そのため,本研究では地域に存在する多様な主体の把握を行い,それぞれの活動がどのような特徴を持ち,どのような協働が可能となるのかを明らかにしていく.
田中 武士 介護殺人関連要因の連続性に関する研究  これまで地域社会における介護殺人の防止と課題に関する研究の結果、介護殺人は介護者の介護疲れなど個人的要因のみで発生するわけではなく、5つの介護殺人関連要因が影響を及ぼしていることがわかった。すなわち、①健康・疾病要因、②経済・労働要因、③家族関係要因、④社会的関係要因、⑤社会保障関連要因であるが、それらは社会的性格と社会的背景を内包しており、介護殺人を防止するためにはこれら重層的な要因への対応が必要となる。しかし、現段階では各要因の検討にとどまっており、重層的な要因としてとらえた検討が不足していることが課題となっている。
 本研究では、5つの介護殺人関連要因について各要因の検討を深めるとともに、重層的にとらえた各要因間の連続性を明らかにすることを目的とする。各要因間の連続性を明らかにするために、介護者と要介護者の生活に影響を与えてきた社会環境、政策について歴史的な視点を重視した研究方法によって取り組む予定である。
     

 

奨励研究員名                        

研究テーマ 研究概要                                        
北村 香織

障害のある人と施設  

〜相模原障害者殺傷事件から考える

2016年7月26日に神奈川県相模原市の障害者支援施設「津久井やまゆり園」で起きた相模原障害者殺傷事件は、社会、障害当事者や家族に対し大きな衝撃と恐怖を与えた。事件から7年。これまで、多くの議論が行われ、論点も示されてきた。とはいえ、この事件は、さまざまな要素がからみあって起きており、それをひもとく作業は容易ではない。考え続けなくてはならないことが多くある。 本研究では、論点のうちの一つ、「障害者施設収容主義」に着目し、日本の障害者政策が障害のある人の生活の場をどのように考えてきたのかを明らかにすることによって、そこに潜む「優生思想」について考察したい。また、相模原障害者殺傷事件は、障害者を標的としたヘイトクライムである。刑法を専門とする本学法経科教員の楠本孝先生に共同研究者として参画いただくことで、「差別」の論理を問い、障害のある人が主権者として暮らしていく具体的な方法を考察したい。
     
研究代表者 共同研究員名 所属/役割分担
武田 誠一 村瀬 博 松阪看護専門学校講師・本学 元非常勤講師/ヒアリング調査(渉外担当)
武田 誠一 水谷 久 社会福祉法人あゆみ理事長・本学 非常勤講師/ヒアリング調査(渉外担当)
北村 香織 楠本 孝  

研究員(2022年度) 

研究員名 研究テーマ 研究概要
相川 悠貴 ウェアラブル生体センサを用いた日常の体調変動の予測 【背景】近年、身体に着用しながら継続的に心拍数や温度を測定することができる機器が発達してきた。その機器により、即時の体調評価が可能になってきたが、まだ予測に用いるまでの利用方法が発展していない。
【目的】ウェアラブル生体センサにより採取した生体データを用いて、日常の体調変動予測方法を作成することである。
【方法】対象者に対し、約1か月間の継続測定を行う。測定期間中、対象者はウェアラブル生体センサを着用し、継続的な生体データを入手する。加えて、生活活動と体調を毎日記録する。
【予想される結果】体調不良が生じる際の、生体データの特異的な変化を発見する。
【本研究の意義】体調不良の兆候が生じた際、事前に休養を取るように進言できる知見が得られる。それにより、体調不良による学業や勤務の欠席削減に繋がる。これは、本学学生や三重県内生徒の学力向上や、三重県内勤労者の労働生産向上に繋がる。
川上 哲 行政のデジタル化・デジタル改革に関する実証研究。三重県を中心とした都道府県並びに市町村のデジタル改革について、その進捗状況や課題を検討する。具体的にはいくつかの自治体の実態調査を行う。また政策研究・研修として位置づけ、津市職員のデジタル改革に対する認識を深めることにも寄与したい。 一昨年9月のデジタル庁設置に見られるように、デジタル改革は現在の政策課題の中でも重要な位置づけがなされており、行政においては「行政のデジタル化」の推進が焦眉の急をなっている。しかしながら「行政のデジタル化」とは何なのか、どのような改革なのかについて、その全貌について自治体職員の間に十分に共通認識が構築されているとは言えない状況にある。「行政のデジタル化」とは、それまで紙媒体を中心として行われていた諸手続きを単に電子媒体に置き換えるといったものではなく、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に本質があることを理解する必要がある。
 そのため、政策研究・研修の一環として行う本研究では、デジタル改革、中でも「行政のデジタル化」についての全体像を政府、とりわけデジタル庁や総務省の政策文書を元に整理することが必要である。その上で、具体的に津市などの自治体でデジタル化をどのように推進していくのか、その課題を抽出していくことが必要である。その課題の抽出には、実際に行政の現場で仕事を行っている行政職員の参加が不可欠であり、本研究は自治体の今後の政策立案にとっても職員の認識を深めることができよう。
 さらにデジタル改革に積極的に取り組んでいる自治体の視察調査も行う。具体的には参加者と相談して決めるが、東京や大阪、名古屋などの大都市部を中心とした自治体に2回ほど調査に入りたいと考えている。
高橋 彩 所得格差、ジェンダー不平等問題に対する意識と投票行動との関連―三重県在住の成人を対象として  持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goalsの認知度は、年々高まっている。日本経済新聞社(2021)の「Z世代サステナブル意識調査」によると、関心のある社会課題として、Z世代(2021年時点で19-26歳)は他の年代よりも、「人種差別」「飢餓・栄養不足」「ジェンダー不平等」「LGBTQ(性的マイノリティー)差別」を上位に挙げており、「災害に強いまちづくり」や「気候変動」については、年齢が上の世代になるほど上位に挙げていた。また、「所得格差」と「貧困」についてもZ世代とY世代(27~41歳)に関心が高く、X世代(42~56歳)以上の世代では、「所得格差」や「貧困」よりも「高齢化」と「介護問題」の関心が高くなっていた。本研究では、所得格差やジェンダー不平等といった世代間で関心の差がある社会問題に対する態度と、投票行動との関連を検討する。自民党支持率が若い年齢層に高いとされているが、その政策は、ジェンダー不平等や性的マイノリティ差別の解消に積極的であるとはかならずしも言えない。若者の格差や不平等に関する関心と投票行動との間にどのような関連があるのかを、他の世代と比較することで明らかにし、若者の投票率を高める要因について考察する。
小野寺 一成 近年の都市計画関連法改正と地方都市再生を担った計画及び事業の役割と効果ー地方都市における都市構造再編と中心市街地活性化を中心にー  2015~2018年度まで在籍した日本建築学会 都市計画委員会 地方都市再生手法小委員会から継続して、2019年度より同委員会の「地方都市拠点デザイン小委員会(~2022年度)」のメンバーであることから、引き続き地方都市再生に関する研究を行う。加えて、2021年度本学の在外研修「都市計画関連法改正に伴う計画論・技術論の変遷と地方都市再生の計画及び事業の分析」の一部取りまとめを行う。
 近年からこれまでに改正された都市計画関連法の内容と、それに基づき地方都市の再生に向けて策定されてきた各種計画の取り組みを体系的に整理し、地方都市再生に向けた計画論・計画技術論として取りまとめて行きたい。単なる「縮小」ではない拠点論、計画論、ネットワーク論、制度論などの知見を得るために全国の先進事例都市の現地視察などを行いながら、地方都市再生を担った計画及び事業の役割と効果などを総合的かつ体系的に分析したい。
また、三重短期大学が立地する津市においても、「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を念頭に、都市計画マスタープランや立地適正化計画が策定されていることから、本研究は津市においても持続的に発展できるような都市構造の構築に向けた示唆を含んだ内容とする。
大畑 智史 関西広域連合が発足して十数年経ったが三重県はまだ当該連合に参加していない。これまでの関西広域連合の取組み、世界的なICT活用の普及、などの状況を見据え、改めて当該連合への三重県の参加について分析する。  日本各地において地方創生の議論が活発であるが、この議論における広域連携の視点は重要性を増すようになってきている。そこで、本研究では、関西広域連合の地方創生の取組みがより効果的なものになるよう、適正なICT活用、経済促進的な税制の活用、などの視点を重視し、当該連合への三重県の参加について分析する。この中では、その参加による関西広域連合の地方創生の取組みの活性化、その参加による三重県の受益、などのその参加と関係する諸事項をできるだけ具体的に分析することとする。また、この分析に基づき、関西広域連合や三重県の地方創生の取組みの改善策を分析することとする。以上の分析は、三重県の当該連合への参加の議論の際に役立つと考えられる。
南 有哲 外来生物問題懐疑論の思想的検討――『人新世』概念とのかかわりを中心に 2010年代後半より、「外来生物は駆除の対象ではなく、受容すべき」、「外来生物をもふくむ自然環境を『新しい野生』として承認すべき」、といった内容の書籍が海外で刊行され、盛んに邦訳紹介されてきており、外来生物をめぐる実践や研究に一定の影響を与えている。
本研究においては、このような見地を、「外来生物問題を解決が必要な環境問題とは見なさない、あるいはそれを深く疑う立場」として、「外来生物問題懐疑論」と命名し、その思想的意味を、特に、人間が地球環境を急速かつ圧倒的な質および量で変容させつつある状況が「人新世」として概念化されつつあることとの関連で、批判的に分析することを、その目的とする。このような研究は、地域の自然環境の保全のあり方を考える上で、重要な示唆をもたらすものとなることが期待される。
武田 誠一 高齢者世帯に対する生活支援の課題に関する研究-地域におけるゴミ出し支援の検討- 「ゴミ出し支援」制度とは,環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課によると,
「高齢者を対象としたごみ出し支援制度」とは,自治体がごみ出し困難な高齢者世帯から戸別にごみ回収を行ったり,あるいはごみ出しが困難な高齢者に代わってごみ出し支援を行う自治会・NPO等の支援団体に対し自治体が補助金等を支給して活動を支援する制度など,高齢者のごみ出し支援に特化した制度を指す.さらに、自治体による高齢者の見守り支援ネットワークや、高齢者世帯を対象とした生活支援事業の一環としてごみ出し支援を行っている場合など,自治体が運営・関与する高齢者世帯を対象とした在宅生活支援の仕組みの中で行われているごみ出し支援も対象としている.
 これまでの研究により,地域における「ゴミ出し」支援には,以下の類型が存在している.
〇タイプⅠ:直接支援型(直営)
 自治体が運営主体となり,自治体職員が直接,利用者宅を訪問し,家庭ゴミを戸別収集する直営方式
〇タイプⅡ:直接支援型(委託)
 自治体から委託された事業者が,利用者宅を訪問し,家庭ゴミを戸別収集する方式
〇タイプⅢ:コミュニティ支援型
 自治体が,ゴミ出し支援活動を行う自治会やNPO等の地域の支援団体に対して補助金等で支援する方式
〇タイプⅣ:福祉サービスの一環型
 自治体の福祉部局が,福祉サービスの一環として,高齢者世帯のゴミ出し支援を行なう方式
 三重県内では,四日市市が公的介護保険制度のサービスである訪問介護とゴミ出し支援を組み合わせた,回収ボックス方式を開始している.このようにゴミ出し支援は,多様な形態が考えられる.また,介護予防・日常生活支援総合事業でも,地域住民の互助活動としても,生活支援の一環としてゴミ出し支援の展開が求められており,ゴミ出し支援は,フォーマル,インフォーマル問わず,今後もサービスニーズが増加すると考えられる.
 そのために本研究では,2021年度の研究成果を踏まえ,「コミュニティ支援型」や「福祉サービスの一環型」の実施例を調査し,その役割,機能,課題を福祉社会学,地域社会学の視点から明らかにしつつ,後期近代の個人と互助のあり方を考察する.
田中 武士 介護殺人の防止と課題に関する研究  本研究では、現代社会における介護問題の深刻化が顕著に表れているものの一つとして介護殺人を例に挙げ、事件の背景なども踏まえて検証を行う。さらに、これら事件が起こる過程から介護問題が深刻化する状況を検証することによって、どのようにすれば介護殺人を防止するための具体的な課題を明らかにすることを目的とする。 現代社会においては、介護殺人のように介護で命を落とすケースはあくまで特殊な例とみなされ,介護問題深刻化のシグナルとみる見方は必ずしもされてこなかった。本研究では、介護殺人を地域における介護問題全体の中に位置づけ、その社会的要因を分析し介護保障の実現のための課題を明らかにする点に特色がある。
北村 香織 障害のある人の尊厳を守る  ー障害者虐待防止法・障害者差別解消法と地方自治体の役割 障害者虐待防止法が施行されて10年、障害者差別解消法が施行されて6年となるが、障害のある人に対する虐待は未だなくなる兆しがない。2016年には相模原障害者施設殺傷事件が起こり、未だその衝撃は消えず、障害のある人も安心して暮らせる社会をどのように構築するのか糸口がつかみきれない。本研究では、施設内虐待を中心に取りあげながら、まず虐待と差別のつながりを明確にすることを目指す。そして、現行の障害者虐待防止法と障害者差別解消法の関係性について整理し、同時に地方自治体が果たす役割についても考察したい。
【奨励研究】楠本 孝 津市における外国人住民の生活実態調査 津市における来日外国人の生活実態(滞日年数、日本語習得の程度、就業の状況、健康保健等への加入の有無、子どもの就学状況、将来の展望(帰国・永住の意思など)、災害に対する備えなど)を調査し、津市の外国人政策の参考となる資料を作成する。1 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けた景気後退により、多くの外国人住民が雇止めされたり、勤務時間の短縮による大幅な収入減を経験している。困窮する外国人住民に対し、市は一元的相談窓口における情報提供・相談対応を行っているが、様々な理由で相談に来られない外国人住民の声を聴く方途が必要である。
2 新型コロナウイルスは外国人児童の就学に一層の負荷をかけている。就学年齢の子どもを持つ外国人住民が、子どもの教育について、どのような不安を感じているか、どのような要望を持っているか、調査する必要がある。
3  外新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、感染予防に関する情報、ワクチン接種に関する情報、PCR検査に関する情報など、外国人住民に対するコロナ対策に係わる様々な情報の提供が必要になっている。これらの情報が外国人住民にどの程度届いているか、外国人住民がこれらの情報提供について、どのような要望を持っているか、調査する必要がある。

研究員(2021年度)

2021年度 地研研究員一覧
●研究員
研究員名                          研究テーマ 研究概要
大畑 智史 地方創生におけるICT活用  現在、日本においても地方創生の議論が活発である。東京への人口流出、少子高齢化、などの要因により衰退していく地方が日本には数多くある。そうした地方では、各種地方創生の取組みがなされているが、これは全体としてみると成功しているとは考え難い。そうした取組みにおいて重要性を高めつつある要素の一つにICT活用がある。こうした状況を見据えると、地方創生におけるICTのより適切な活用方法を分析することは欠かせない。また、ICT関係の技術が日々進化している現状も考慮すると、ますますその分析はなされる必要がある。本研究では、その分析に焦点を当てることとする。なお、当該分析が地方創生の議論が活発な三重県の場合においても欠かせないものであることから、本研究においては、三重県の地方創生におけるICTのより適切な活用方法の分析も交えることとする。
楠本 孝 津市における来日外国人の生活実態調査  津市における来日外国人の生活実態(滞日年数、日本語習得の程度、就業の状況、健康保健等への加入の有無、子どもの就学状況、将来の展望(帰国・永住の意思など)、災害に対する備えなど)を調査し、津市の外国人政策の参考となる資料を作成する。
駒田 亜衣 三重県津市における保健指導実施者の検査値推移  平成20年から特定健診・特定保健指導が実施されており、三重県津市においても毎年データ解析を行い、報告してきた。これまで、特定保健指導の対象者で実際に指導を受けた場合、受けなかった場合と比較して検査値が改善していることを報告した。また、継続した10年間の受診データ解析も行ってきた。
 津市では毎年約1万6千名が受診しており、特定保健指導も毎年実施されている。
 本研究では、平成31年度(令和元年度)の最新のデータを用い、特定保健指導の対象となった受診者のうち、実際に保健指導を受けた人を対象に検査値の改善程度を解析する。コントロール群には、保健指導対象者であって、指導を希望せず「自分で管理する」と回答した人を設定する。
 どの検査値が有意に改善したかに加え、どのように食生活・生活習慣が変化したのかも合わせて確認し、より効果的な保健指導の在り方を明らかにする。
相川 悠貴 ウェアラブル生体センサを用いた日常の体調変動の予測 【背景】近年、身体に着用しながら継続的に心拍数や温度を測定することができる機器が発達してきた。その機器により、即時の体調評価が可能になってきたが、まだ予測に用いるまでの利用方法が発展していない。
【目的】ウェアラブル生体センサにより採取した生体データを用いて、日常の体調変動予測方法を作成することである。
【方法】対象者に対し、約1か月間の継続測定を行う。測定期間中、対象者はウェアラブル生体センサを着用し、継続的な生体データを入手する。加えて、生活活動と体調を毎日記録する。
【予想される結果】体調不良が生じる際の、生体データの特異的な変化を発見する。
【本研究の意義】体調不良の兆候が生じた際、事前に休養を取るように進言できる知見が得られる。それにより、体調不良による学業や勤務の欠席削減に繋がる。これは、本学学生や三重県内生徒の学力向上や、三重県内勤労者の労働生産向上に繋がる。
長友 薫輝 地域の医療・介護をめぐる政策動向の分析〜コロナ後を見据えた供給体制の再編〜   コロナ禍においても、地域の医療・介護の政策としては、以前と変わらず供給体制の再編が主軸となっている。地域医療構想と地域包括ケアシステムを両軸として政策展開がなされており、直近では公立・公的病院の再編だけでなく民間医療機関も含めた病院再編が現実のものとなりつつある。新型コロナウイルス感染症対策としても、供給体制の再編がどのような姿となるのか、注目されているところである。実際に地域の医療保障・介護保障がどのように整備されているのか。これまで関わってきた秋田県鹿角市、福岡県北九州市を中心とした地域調査結果も活用し、三重県をはじめとする各地の医療・介護の供給体制の再編政策の展開に貢献することを目的として研究を進めたい。
高橋 彩 青年は不平等、貧困問題と政治をどのように見ているのか―政治的イデオロギーと道徳との関連―  若者の政治離れ、無関心は長年指摘されている。公職選挙法が改正され、2016年から18歳以上の高校生も投票が出来るようになり,その年の参院選は、18歳51.28%、19歳42.30%という比較的高い投票率を記録したが、2017年の衆院選では18歳47.87%、19歳33.25%、2019年の参院選は18歳34.68%、19歳28.05%と、若者の投票率は全年代平均よりも低い。内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査 (平成30年度)」によると、政治にどのくらい関心があるかとの問いに、『関心がある』と答えた13-29歳の若者の割合は、ドイツ(70.6%)、アメリカ(64.9%)、イギリス(58.9%)、フランス(57.5%)、スウェーデン(57.1%)、韓国(53.9%)に比べて、日本は(43.5%)と低かった。同調査で、日本社会の問題として、「まじめな者がむくわれない」(39.8%)、「学歴によって収入や仕事に格差がある」(35.9%)、「貧富の差がある」( 32.9%)、「よい政治が行われていない」( 32.9%)が挙げられていたことから、若者も格差や貧困、差別や不平等といった問題を身近に感じているものの、そうした問題意識と政治的態度や関心とが結びついていないようにみえる。コロナ禍においては貧困や生活保護の問題、また男女共同参画大臣による選択的夫婦別姓制度への反対署名、オリンピック委員会における女性蔑視問題など多くの格差や不平等の問題が浮き彫りになり、こうしたニュースは少なからず若者にも影響を与えたと考えられる。本研究では、経済的格差、不平等に対して、青年はどのような考えをもっているのか、その判断の個人差の要因と政治的行動についての探索的、縦断的調査を行う。Haidtらの道徳基盤理論の「他者を傷つけてしまうことへの配慮」や「公正さの重視」、共感性、社会的支配志向性、メディア接触、身近な他者、大学教育、熟慮思考といった要因を取りあげる予定である。
 三重短期大学の学生を対象とした質問紙調査と、三重県内在住の18歳から20歳の若者を対象としたWEB調査を実施(予定)
武田 誠一 地域における「ゴミ出し支援」の実態とその課題に関する研究  「ゴミ出し支援」制度とは,環境省環境再生・資源循環局廃棄物適正処理推進課によると,「高齢者を対象としたごみ出し支援制度」とは,自治体がごみ出し困難な高齢者世帯から戸別にごみ回収を行ったり,あるいはごみ出しが困難な高齢者に代わってごみ出し支援を行う自治会・NPO等の支援団体に対し自治体が補助金等を支給して活動を支援する制度など,高齢者のごみ出し支援に特化した制度を指す.さらに、自治体による高齢者の見守り支援ネットワークや、高齢者世帯を対象とした生活支援事業の一環としてごみ出し支援を行っている場合など,自治体が運営・関与する高齢者世帯を対象とした在宅生活支援の仕組みの中で行われているごみ出し支援も対象としている.
 高齢者の生活支援の中で,課題の一つが「ゴミ出し」である,小島(2017)は筋力の低下や関節疾患がある高齢者にとって,大きなゴミ袋を集積所まで運ぶ作業は大きな負担であると指摘している.※小島 英子(2017)「高齢者ごみ出し支援の現状と課題」,『国民生活』(62), pp.12-14.
 また,軽度認知障害ではゴミ出しの曜日や分別のルールが覚えられない状況に陥ってしまう.なお,軽度認知障害では,要介護度の認定で公的介護保険を活用した生活支援サービスの利用が思うように活用できない場合もあり,なんらかのインフォーマルな支援がない場合は,いわゆる「ゴミ屋敷」に成りかねない.
 そのような中で,近隣住民の互助による「高齢者世帯へのゴミ出し支援」(「コミュニティ支援型」や「福祉サービスの一環型」)を制度化することは,日常生活での困り事である「ゴミ出し」問題とその支援の過程で近隣住民による見守り体制の両方を確立できる制度である.
 現在,津市では「直接支援型」による「大型家具等のゴミ出し支援」に限定されている.今後は,大型家具以外の日常の「ゴミ出し支援」が課題になるであろう.
 そのために本研究では,政府の廃棄物行政の動向,各自治体の取り組みなどを把握するだけでなく,「コミュニティ支援型」や「福祉サービスの一環型」の先行事例などを調査し,その役割,機能,課題を社会学,社会福祉学の視点から明らかにしつつ,後期近代の互助のあり方を考察する.
                              
     
     
●奨励研究員
奨励研究員名                         研究テーマ 研究概要                                        
長友 薫輝 コロナ禍における社会福祉援助技術の地域実践とVR等の活用  コロナ禍において、ソーシャルワーク教育のオンライン化が進展している。本学においても2020年度から社会福祉士養成教育に関して、オンラインによる代替実習を実習先の施設・機関とともに実践を積み重ねてきた。ZoomやGoogle meetを活用し、実習先と学生・教員を結んで実習を行なっており、最近では社会福祉施設の実習指導者がスマートフォンで動画を撮りながら、施設内を移動し施設利用者や職員との対話による工夫を行える段階となった。そこで、VRなどさらなるICTの活用によるソーシャルワーク教育のあり方を模索し、可能性を追求したい。なお、実習先には社会福祉施設だけでなく、地域福祉活動を主軸とする社会福祉協議会も含まれていることから、地域実践の現場においてもICTの活用を進め、コロナ禍での住民主体のまちづくりをどう進めるか。社会福祉士養成教育の現場から、地域とともに発信する契機としたい。
     
●特別研究員
特別研究員名                         研究テーマ 研究概要                                        
茂木 陽一 三重県域における近世から近代への児童保護の転換について ①神宮領を事例とした棄児の発生と保護の実態を元禄から明治初年について検証する
②篤志家としての商家経営の論理を松坂商人、三井家について検証する
③棄児多発地帯としての九州地域(長崎・福岡・熊本)と三重県域との比較を棄児慣行とマビキ慣行との関連について検証する。
①については、旧三重県史編纂室架蔵の内宮領朝熊村の年寄日記の記事から、時期的な変動を考える。
②については、長谷川家文書(NPO法人松坂歴史文化舎寄託)長井家文書(津市石水博物館所蔵)から松坂商人について、三井家育児方関係史料(三井文庫所蔵)から三井家について夫々検討する。
③については、長崎県は島原藩庁日記により島原地域の事例を、福岡県については、九州大学九州文化史研究所所蔵大庄屋文書により小倉藩地域の事例を、熊本県庁文書により天草地域の事例を,夫々収集・分析して、三重県域との比較を行う。
以上の作業を踏まえて、表記の研究テーマの解明を行う。
岩田 俊二 明治期以降の農村居住環境整備の発展過程に関する研究 ―特に明治初期耕地整理から戦後開拓まで―  農村の居住環境整備史を耕地整理法の時代,土地改良法の時代を通して著すことを目的にしている。農村整備は昭和45年ごろから本格的に農政の課題となり実施されてきており,その経緯については『豊かな田園の創造 農村整備事業の歴史と展望』(農村整備事業の歴史研究委員会編,日本農業集落排水協会,1999年)等に明らかにされている。
 また,耕地整理や土地改良事業については『土地改良百年史』(今村奈良臣,平凡社,1977年),『農業土木史』(農業土木学会,1979年5月)等が著されている。しかし,明治初期から戦後開拓あたりまでの旧耕地整理法の時代における農村居住環境整備の歴史についての著作は見当たらないので,特に明治初期から戦後開拓までの期間の農村居住環境整備の歴史について調査研究を行う。方法は同期間の農村居住環境整備の歴史について文献資料から通時的な分析を行うとともに,その分析の中から特徴的な事例地区を選択し,分析を行う。
 2019年度は明治初年の静岡式の田区整理事例として静岡県袋井市田原地区・磐田市の該当地区,石川式の田区整理事例として金沢市上安原の事例,明治期耕地整理法施行後の耕地整理の全国モデルとなった埼玉県鴻巣市常光地区の事例を調べた。
 2020年度は戦前戦後の開墾開拓地区の居住環境整備の整備方針を検証し,事例地区を選定し現地調査を行う予定であったが,コロナ禍のために明治期の耕地整理法制定直後の耕地整理地区の事例として埼玉県鴻巣市だけ現地調査した。
 残余は2021年に調査する。最終的な研究成果は農村居住環境整備の通史部分と特徴的な地区の個別史部分を併記し農村居住環境整備の歴史を明らかにするが研究の狙いは個別史部分に置くこととしているが,全体的に研究の進行が遅れているので,まとめは遅延する見込みである。

研究員(2020年度)

 
     
 
研究員名                          研究テーマ 研究概要
相川 悠貴 運動が食欲や食事摂取に及ぼす影響 【背景】対象や運動様式、対象者心理によって、運動が食欲や食事摂取に与える影響は異なることが明らかになってきた。エアロビック・抵抗性混合リズム運動、登山は、楽しく、身体に高負荷を与えられる運動であり、健康維持に有効な運動として知られている。
【目的】エアロビック・抵抗性混合リズム運動が食欲と食事摂取に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】健康な人を対象に、安静後、60分のエアロビック・抵抗性混合リズム運動後、登山活動中の食欲と食事摂取を、交差試験により検討する。また、対象者は10人程度募集する。運動強度は心拍数の変動により評価する。心理尺度はPOMS2短縮版を用いて評価する。食欲、疲労はビジュアル・アナログ・スケールを用いて評価し、食事摂取は被験食を自由摂取させて評価する。
【予想される結果】60分のエアロビック・抵抗性混合リズム運動後や登山はイライラ感や抑うつ感が減少する。その満足感と運動による疲労により食欲が減少し、食事摂取量の増加が生じないことが予想される。
【本研究の意義】体重減量に対する効果的な運動方法を提言する知見になり得る。これは、三重県民や三重短期大学学生の健康増進に繋がる知見となる。また、食物栄養学専攻学生と実施することで、卒業後三重県の健康増進に携わる者に、運動と食事に関する知識を身につけさせる成果も得られる。
楠本 孝 「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」について 「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」は、我が国で初めていわゆるヘイトスピーチに刑事罰を科す条項を含んでおり、画期的なものであるが、それだけにその合憲性を巡って学会で議論されることは確実であり、場合によっては裁判で争われることも十分に想定される。そこで、同条例の成立過程や、類似法規及びその裁判例を検証して、同条例の合憲性を確証することを目的とする。
田添 篤史 地域間格差が存在する場合の金融政策依存の問題点 現在のマクロ経済政策は、財政上の制約もあり金融政策に依存する形となっている。しかし金融政策によって決定されるマクロ的諸変数は全国に一律に影響するものであるため、地域間の経済状態に差が存在する場合には、各地域の経済実態を無視した影響を及ぼすことになると考えられる。昨年度はこれについてモデル化を行った。今年度は地域間格差に対して、金融政策の重視がどのような影響を及ぼすものであるかを実証的に検討する。
大畑 智史 租税分野におけるICT活用 近年、世界的に行政など社会の多くの場面でICT化の動きが強まってきたことはよく知られている。このような中で、もちろん、租税と直接的間接的に関係するICTシステムは数多く存在している。例えば、クラウド型ERP、日本におけるマイナポータル、といったICTシステムは租税と大きく関係している。以上のような状況が、三重県の場合においても当てはまることは言うまでもない。本研究では、そうしたICT化の租税の性質への影響について分析することを目的とする。この分析の中では、できるだけ三重県の場合の分析を考慮することとする。以上の分析は、そうした社会状況の中での租税の適確な施行のためには欠かせないものである。
高橋 彩 青年期における自律性の獲得と親への情報開示方略 本研究は、社会的領域理論に基づき、青年の自律性の発達と親子関係について検討するものである。具体的には、高校生と大学生を対象に、青年が親からの自律性を獲得する方法の一つとして、開示方略(自分に関するどのような内容を、どの程度開示するのか)と親子関係との関連などを質問紙調査によって明らかにする。
自律性の獲得は青年期の主要な課題の一つである。児童期には親の作った規則に従っていても、年齢とともにそうした親の管理を拒絶し、自分自身で意思決定を行うことが増える。青年期に親子間で葛藤が増加する理由の一つに、青年が個人の自由であると考える事柄に対して、親が規則を作って子どもに従わせようとすることがあげられる。社会的領域理論では、個人に決定権があるという判断は、個人領域の判断ととらえる。例えば、自分のお金の使い方や自由時間の過ごし方、友人の選択という問題は、個人の統制下にある代表的な事柄である。一方、ダイエットをするという問題は、自分の身体のコントロールという意味では個人領域から「自分の問題である」と判断できるが、「青年の健康に害があるから良くない」と自己管理領域からも判断できる。このように社会的領域理論は、私たちが物事を判断、推論するときに用いる正当化を、個人領域、自己管理領域、慣習領域(任意のルールや規範、マナーの観点から判断)、道徳領域(ルールの有無とは関係なく、他者の福祉、権利から判断)として理解する。青年が自分に関する様々な事柄をどの程度個人の自由であると考え、親の統制を拒否するのか、また青年の開示を促す親子関係の特徴は何かを明らかにすることは、青年期の子をもつ親へ有益な知見を提供できると考える。
調査対象:三重県内と愛知県内の高校生、短期大学生、大学生
小野寺 一成 人口減少下での集約型都市構造再編と拠点形成に向けた研究(その2)
-地方都市における実践と課題-
2018年度まで在籍した、日本建築学会 都市計画委員会 地方都市再生手法小委員会から継続して、2019年度より同委員会の「地方都市拠点デザイン小委員会」のメンバーであることから、引き続き地方都市再生に関する研究を行う。
近年、立地適正化計画制度に代表される人口減少に適応した都市構造再編のための計画制度が整備されている。しかし、人口減少に伴い表出する地区の空間構造の改変を時間的空間的に細 かくマネジメントし、望ましいものへと誘導していくためには、単なる「縮小」ではない拠点論、計画論、ネットワーク論、制度論などの拡充が求められる。今年度は、その知見に有用となる全国の先進事例や調査報告文献などを収集するものとする。
また、三重短期大学が立地する津市においても、「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を念頭に、都市計画マスタープランや立地適正化計画が策定されていることから、2020年度の本研究は昨年度に引き続き、津市におていも持続的に発展できるような都市構造の構築に向けて、単なる「縮小」ではない拠点論、計画論、ネットワーク論、制度論などの知見を得るために全国の先進事例などを収集することにある。
武田 誠一 三重県における「地域共生社会」実現の課題 「地域共生社会」は,地域包括ケアシステムを深化させた状態であり,これまでが高齢者中心であった支援体制を年齢にとらわれない,支援体制の構築を目指すものである.
一方で,こういった考え方は,「我が事・丸ごと」や「断らない相談」といったフレーズで語られることが多い.ただ,その実態が何を指しているのかは明確ではない.つまりは特定の事業などを指すものではなく,各地域の独自性に依拠した実践にその価値が求められるものである.
そのため本研究では三重県内における「地域共生社会」の実態を把握し,その特徴,課題などを整理する.
本研究では,自治体が主導する「地域共生社会」のあり方を明らかにするのみならず,地域住民,介護職,福祉職,保健・医療職の果たす役割にも言及していく.
北村 香織 障害のある人の地域医療サービス利用に関する研究 障害のある人が医療サービス(代表的なものとして病院での診療)を利用する際には、多くの困難や不便が伴う。それは例えば、高額な医療費の支払いや病院などへの移動手段のなさ、また移動費用の負担、病院内での不安、医療従事者の障害への無理解等といったことがあげられる。今回は、特に「サービスの利用方法」に着目し、障害のある人が病気で診療を受けるまでに感じる利用しづらさはどこにあるのか、利用を阻む要因について分析したい。そして、具体的に地域医療機関や行政などができる改善点や工夫はどのようなものなのか検討する。
長友 薫輝 地域の医療保障・介護保障づくりの政策展開に関する調査〜地域医療構想と地域包括ケアシステムの動向から〜 地域医療構想と地域包括ケアシステムを両軸として、医療・介護供給体制の再編が進められてきた。新型コロナウイルス感染症対策としても、供給体制の再編がどのような姿となるのか、注目されているところである。実際に地域の医療保障・介護保障がどのように整備されているのか。これまで関わってきた秋田県鹿角市、福岡県北九州市における地域調査を行い、各自治体の今後の政策展開に貢献することを目的として研究を進めたい。
駒田 亜衣 津市における平成30年度特定健康診査・特定保健指導の解析と11年間の推移 現在、「特定健康診査・特定保健指導」開始から12年が経過し、11年分のデータが蓄積されている。三重県津市においても同様であり、これまで平成20年から29年までのデータを毎年集計・報告してきた。
昨年度の研究成果として、津市の10年分の特定健診結果を活用し、保健指導実施者のその後の状況を報告した。引き続き、蓄積されたデータの活用方法については課題のひとつとなっている。
そこで本研究では、津市で実施された最新の平成30年度特定健診結果の解析と平成20年から11年間の動向(検査値推移や生活習慣の変化)を確認し、今後の健康づくりに役立てることを目的とする。
     
     
     
●奨励研究員
奨励研究員名                         研究テーマ 研究概要                                        
長友 薫輝 「相模原障害者殺傷事件」の根源を問う 重度知的障害者のみを狙った犯行として知られる相模原障害者殺傷事件を、どのように私たちは受け止めて考え行動するべきか。脆弱な社会保障制度、問われるべき公的責任の所在、そして根底にある優生思想や差別的な対応について、少しずつ整理していきたい。元ハンセン病患者への隔離政策をはじめ、これまでの優生思想や差別にもとづく政策的対応がどのような状況をもたらしたのか、約20年ほど前から調査などを通じて関わっており、あらためてここで検討を加えたいと考えている。
     
●特別研究員
特別研究員名                         研究テーマ 研究概要                                        
岩田 俊二 明治期以降の農村居住環境整備の発展過程に関する研究 ―特に明治初期から戦後開拓まで― 農村の居住環境整備史を耕地整理法の時代,土地改良法の時代を通して著すことを目的にしている。農村整備は昭和45年ごろから本格的に農政の課題となり実施されてきており,その経緯については『豊かな田園の創造 農村整備事業の歴史と展望』(農村整備事業の歴史研究委員会編,日本農業集落排水協会,1999年)等に明らかにされている。また,耕地整理や土地改良事業については『土地改良百年史』(今村奈良臣,平凡社,1977年),『農業土木史』(農業土木学会,1979年5月)等が著されている。しかし,明治初期から戦後開拓あたりまでの旧耕地整理法の時代における農村居住環境整備の歴史についての著作は見当たらないので,特に明治初期から戦後開拓までの期間の農村居住環境整備の歴史について調査研究を行う。方法は同期間の農村居住環境整備の歴史について文献資料から通時的な分析を行うとともに,その分析の中から特徴的な事例地区を選択し,分析を行う。2019年度は明治初期の静岡式の田区改良事例として静岡県袋井市田原地区・磐田市旧富岡村の該当地区,石川式の田区改良事例として金沢市上安原地区の事例,明治期耕地整理法施行後の耕地整理の全国モデルとなった埼玉県鴻巣市常光地区の事例を取り上げ,居住環境整備の観点から分析した。2020年度は戦前戦後の開墾開拓地区の居住環境整備の整備方針を検証し,事例地区を選定し現地調査を行う。最終的な研究成果は農村居住環境整備の通史部分と特徴的な地区の個別史部分を併記し農村居住環境整備の歴史を明らかにするが研究の狙いは個別史部分に置く。
茂木 陽一 近世・近代移行期における捨子の比較研究(長崎県・三重県を対象に) 長崎・三重両県において、近世の大庄屋文書・藩庁文書(長崎では島原藩、三重では紀州藩・神宮領)、近代の県庁文書から捨子事例の収集を行い、両地域の比較分析を行う。
     

研究員(2019年度)

研究員名

研究テーマ

研究概要

小野寺 一成

人口減少下での集約型都市構造再編と拠点形成に向けた研究-地方都市における実践と課題-

2018年度まで在籍した、日本建築学会都市計画委員会 地方都市再生手法小委員会から継続して、2019年度より同委員会の「地方都市拠点デザイン小委員会」のメンバーとなることから、引き続き地方都市再生に関する研究を行う。                                                                         近年、立地適正化計画制度に代表される人口減少に適応した都市構造再編のための計画制度が整備されている。しかし、人口減少に伴い表出する地区の空間構造の改変を時間的空間的に細 かくマネジメントし、望ましいものへと誘導していくためには、単なる「縮小」ではない拠点論、計画論、ネットワーク論、制度論などの拡充が求められる。今年度は、その知見に有用となる全国の先進事例や調査報告文献などを収集するものとする。                 また、三重短期大学が立地する津市においても、「多極ネットワーク型コンパクトシティ」を念頭に、都市計画マスタープランや立地適正化計画が策定されていることから、2019年度の本研究は、津市におていも持続的に発展できるような都市構造の構築に向けて、単なる「縮小」ではない拠点論、計画論、ネットワーク論、制度論などの知見を得るために全国の先進事例などを収集することにある。

大畑 智史

租税分野におけるマイナンバー制度

近年、世界的に行政など社会の多くの場面でICT化の動きが強まってきた。このような状況の中で、日本では、マイナンバー制度が2015年度に施行段階に入った。このマイナンバー制度と税制とが密接な関連性を持つことはよく知られているが、その詳細な関連性分析が求められる状況がある。三重県内の行政などの場面においてもマイナンバー制度は無視できない。以上のことから、本研究では、租税分野におけるマイナンバー制度の問題点とこれへの対策を考察する。2019年度は、これまでに実施した当該分析をより精緻なものとする。この際、できるだけ、三重県などの地域における、本研究の主要論点についての事例分析も交えることとする。以上の分析は、租税分野におけるマイナンバー制度のより精確な運用につながるものと考えられる。

山田 徳広

三重県産シロミトリ豆を用いた豆乳とアイスの開発に関する研究

シロミトリ豆はササゲの一種で、可食部100gあたり炭水化物57.7g、たんぱく質24.6g、食物繊維19.2gである。三重県においては県北中部に栽培が限定されている。地元でも食べ慣れている年配者には知名度が高いが、若い世代にはあまり知られていない。栽培者の高齢化が進み、このままでは生産が途絶えてしまう恐れがある。
そこで、若い世代にも受け入れられる、シロミトリ豆を用いた甘い豆乳並びにそれを用いたアイスを開発してシロミトリ豆の知名度アップと消費拡大に寄与することを目的とする。               研究方法は、でんぷん系の豆であるシロミトリ豆から作った生豆乳にでんぷん糖化酵素を作用させることによって甘い豆乳を作成し、その後にそれを凍らせたアイスの作成を試みる。

相川 悠貴

運動が食欲や食事摂取に及ぼす影響

【背景】対象や運動様式、対象者心理によって、運動が食欲や食事摂取に与える影響は異なることが明らかになってきた。エアロビック・抵抗性混合リズム運動は、楽しく、身体に高負荷を与えられる運動であり、健康維持に有効な運動として知られている。
【目的】エアロビック・抵抗性混合リズム運動が食欲と食事摂取に及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】健康な人を対象に、安静後と60分のエアロビック・抵抗性混合リズム運動後の食欲と食事摂取を、交差試験により検討する。対象者は8人程度募集する。運動強度は心拍数の変動により評価する。心理尺度はPOMS2短縮版を用いて評価する。食欲、疲労はビジュアル・アナログ・スケールを用いて評価し、食事摂取は被験食を自由摂取させて評価する。
【予想される結果】60分のエアロビック・抵抗性混合リズム運動後はイライラ感や抑うつ感が減少する。その満足感と運動による疲労により食欲が減少し、食事摂取量の増加が生じないことが予想される。
【本研究の意義】体重減量に対する効果的な運動方法を提言する知見になり得る。これは、三重県民や三重短期大学学生の健康増進に繋がる知見となる。また、食物栄養学専攻学生と実施することで、卒業後三重県の健康増進に携わる者に、運動と食事に関する知識を身につけさせる成果も得られる。

駒田 亜衣

三重県と和歌山県の南部に伝わる郷土料理の一考察
ー「馴れずし」を中心に特徴とその背景ー

熊野灘に面する、三重県の東紀州地域と、和歌山県の東牟婁郡とよばれるこの二つの地域は、江戸時代には同じ紀州徳川家の統治下にあり、当然ながら政治的、経済的、文化的な繋がりがあり、かつ気候においても共通点がうかがえる。また奈良県においても同様に、三重県とのかかわりは深い。  
これらの地域は、郷土料理の側面からみても幾つか地域の繋がりの傾向を感じる点が多くある。そこで本研究では、「馴れずし」をつくる地域への現地調査、および地域に残る資料から背景を追求し、その特徴を明らかにすることを目的とする。

 

 

 
     

田添 篤史

地域間格差が存在する場合の金融政策依存の問題点

現在のマクロ経済政策は、財政上の制約もあり金融政策に依存する形となっている。しかし金融政策によって決定されるマクロ的諸変数は全国に一律に影響するものであるため、地域間の経済状態に差が存在する場合には、各地域の経済実態を無視した影響を及ぼすことになる。   この研究ではその点に注目し、地域経済の実情に差が存在する場合に、金融政策に依存することがどのような影響を及ぼすかを、特に地域間格差の変動という点に注目して検討する。

武田 誠一

三重県内の社会福祉法人が実施する「地域における公益的な取組」の実態調査

「自立支援型」地域ケア会議は、今期の津市介護保険事業計画でも各圏域での実施が謳われている。また、国は地域包括ケアシステムの深化の方策としても「自立支援型」地域ケア会議の実施を各自治体にもとめている。       その結果、自治体に対する交付金の算定要件に「自立支援型」地域ケア会議の実施を指標に組み込みことで財政的インセンティブを導入している。                        他方で、各自治体は「自立支援型」地域ケア会議の実施に関しては手探りの状態である。そのため本研究では三重県内で実施されている「自立支援型」地域ケア会議の実態を把握し、その特徴、課題などを整理する。          本研究は、自治体が主導する「自立支援型」地域ケア会議のあり方を明らかにするのみならず、「自立支援型」地域ケア会議に参加する専門職である、介護職、福祉職、保健・医療職の果たす役割にも言及していき、地域包括ケアシステム構築における多職種連携のあり方にも言及を深めていく。

長友 薫輝

地域の医療保障・介護保障づくりの政策展開に関する調査ー地域医療構想と地域包括ケアシステムの動向からー

地域医療構想と地域包括ケアシステムを両軸として、地域における医療と介護の体制整備が進められている。昨年度は診療報酬と介護報酬が同時改定され、,国民健康保険の都道府県単位化が始まった。このような時期において、実際に地域の医療保障・介護保障がどのように整備されているのか。これまで関わってきた秋田県鹿角市、福岡県北九州市における地域調査を行い、各自治体の今後の政策展開に貢献することを目的として研究を進めたい。

北村 香織

女性労働からみる働き方改革

2018年12月に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」 (以下、労働施策総合推進法)」が閣議決定され、それに基づいて厚生労働省は「労働施策基本指針」を示し、現在の働き方を変革し、多様な人材が活躍できる社会をつくることを目指している。            本研究では、特に貧困下に置かれた女性の現状から、政府の示す働き方改革が本当に実態改善に結びつく指針となっているのか検証したい。方法としては、三重県においてどのような具体的計画が示され、女性労働のどのような点に着目しているのかを整理した上で、海外での同様の取り組みや施策などと比較も行いながら日本の働き方改革の特徴を明らかにしたい。

2018年度 奨励研究員

研究員名

研究テーマ 

研究概要

長友 薫輝

医療・介護・社会福祉の政策展開における評価指標のあり方を考える

医療・介護・社会福祉の制度改革が相次いでおり、特に自治体・地域に期待される政策展開が進められている現状において、制度・政策の評価指標と評価の仕組みはいまだ形成されているとは言い難い。そこで、今回の奨励研究として評価指標のあり方について考える地研交流集会の開催を契機として、様々な分野の評価指標、SDGsなどの項目なども視野に入れながら研究を進めたい。

2018年度 特別研究員

研究員名

研究テーマ 

研究概要

岩田 俊二

明治期以降の農村居住環境整備の発展過程に関する研究 ―特に明治初期から戦後開拓まで―

農村の居住環境整備史を耕地整理法の時代,土地改良法の時代を通して著すことを目的にしている。農村整備は昭和45年ごろから本格的に農政の課題となり実施されてきており,その経緯については『豊かな田園の創造 農村整備事業の歴史と展望』(農村整備事業の歴史研究委員会編,日本農業集落排水協会,1999年)等に明らかにされている。また,耕地整理や土地改良事業については『土地改良百年史』(今村奈良臣,平凡社,1977年)等が著されている。しかし,明治初期から戦後開拓あたりまでの旧耕地整理法の時代における農村居住環境整備の歴史についての著作は見当たらないので,特に明治初期から戦後開拓までの期間の農村居住環境整備の歴史について調査研究を行う。方法は同期間の農村居住環境整備の歴史について文献資料から通時的な分析を行うとともに,その分析の中から特徴的な事例地区を選択し,共時的な分析を行う。最終的な研究成果は農村居住環境整備の通史部分と特徴的な地区の個別史部分を併記し農村居住環境整備の歴史を明らかにするが研究の狙いは個別史部分に置く。

 

   

茂木 陽一

近世伊勢神宮領における行き倒れの研究

近世南勢地域は伊勢神宮へ続く参宮街道が縦走しており、諸国からの参宮道者の来訪に伴い行路病者、行路病死者も多数出現した。とりわけ、宝永・明和・文政のおかげ参りでは数百万人の参宮者が主として抜け参りという形でやってくるので、行き倒れも多発していた。他方、参宮道者の来訪は多数の組織化されない乞食・野非人も招来した。彼らは排除の対象でもあったから縊死・病死・餓死などの乞食死も少なからず出現した。この両者を「行き倒れ」ととらえて。その実態と数量的把握を行うことで、近世の南勢地域における貧困とその保護の問題を考察する。

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